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2012年3月31日

先進林業機械を活用した作業システム現地検討会「高性能搬器を活用した高効率架線集材システム」を開催しました

先進林業機械を活用した作業システム現地検討会(静岡県富士宮市)開催結果概略

平成23年11月25日(金)、5日(水)に静岡県富士宮市にて、先進林業機械を活用した作業システム現地検討会を開催しました。全国各地から、約130名の方が参加されました。

[開催概要]
タイトル:先進林業機械を活用した作業システム現地検討会
     「高性能搬器を活用した高効率架線集材システム」
 開催日:平成23年11月25日(金)
実施内容:【午前の部】講演会
     (於:学校法人大原学園富士宮研修センター(大原富士宮ビガークラブ))
       【午後の部】先進林業機械のデモンストレーション
     (於:富士宮市内)


1. 講演会

  (ア) 「全国に導入された先進林業機械の紹介」
     中尾友一(株式会社自然産業研究所・主任研究員)

     当社主任研究員の中尾からは、全国11地域に導入された先進林業機械の
     紹介とともに、先進林業機械の導入時における検討事項について報告
     いたしました。

   【要旨】
   ・ 高性能林業機械のなかでも様々な先駆的な工夫がなされているものを
    先進林業機械と呼んでいる。「ヨーロッパで実績があるが日本では導入
    実績が少ない機械」と「高性能林業機械をさらに進化させた国内開発機械」
    の2種に大別される。
   ・ これまでに国内で普及した高性能林業機械は、建設機械用のベースマシン
    に林業用のアタッチメントをつけたものが主流であった。一方、先進林業
    機械は、ベースマシンも林業専用のものが多く、その特徴として、
    「機動力」「ハイパワー」「多機能」が挙げられる。
   ・ 先進林業機械の導入の目的は、作業効率の改善を通じた経営全体としての
    収益性の向上、また、林業作業員の作業環境の改善よる林業の魅力向上に
    ある。しかし、先進林業機械を導入するだけで収益性の向上や作業環境の
    改善が得られるわけではない。
   ・ 先進林業機械を導入する際は、「①森林資源の状況」、路網整備や団地化
    等の「②インフラの整備状況と見直し」、既存の機械との組み合わせなど
    「③現有の経営資源との適合性」、生産量拡大を見越した材の「④販売先の
    確保」、先進林業機械を購入するための投資資金の確保等の「⑤財務的な
    課題のクリア」などについて、事前に検討しておく必要がある。

  (イ) 「これまでの先進林業機械導入の取組」
     高橋雅弘氏(静岡県森林組合連合会 森林整備部・部長)

    高橋氏からは、これまで静岡県森林組合連合会にて実施されてきた
    先進林業機械導入の取組、特にオーストリア製高性能搬器WOODLINERを
    活用した作業システムについて、ご講演いただきました。

   【要旨】
   ・ 静岡県森林組合連合会では、平成2年にヨーロッパ製の高性能林業機械等
    (プロセッサ、タワーヤーダ、グラップル、グラップル付き10tトラック)
    を導入したが、当初はノウハウや経験が少ないために生産性が上がらず、
    また湿気に対応できないヨーロッパ製の機械の運用に苦労した。
   ・ この点は、「効率的な木材生産は、ヨーロッパ製の大型機械を導入した
    からといって、単純に得られるものではない」という、ドイツ・オーストリ
    アのフォレスターから得た提言でも痛感した。「まず、森林の価値を高める
    ための森づくりのコンセプトがあり、200ha程度のまとまった森林を
    対象に、恒久的な道を整備し、現場に適した作業システムと機械を
    選択し、さらに森づくりや作業を行う人材の育成を進める。
    これらをトータルに行うことが問題解決につながる」という提言のもと、
    試行錯誤しながら活動してきた。
   ・ 昨年度、高性能搬器WODLINERと林業専用トラクタWARIOを導入し、
    急斜面ではタワーヤーダとWOODLINERによる架線集材を、緩斜面では
    林業専用トラクタに搭載したウィンチによる地曳集材を行っている。
   ・ 架線集材について、日本においては沢筋に道が入るので下げ荷集材が
    多いが、下げ荷集材は上げ荷集材に比べ、ワイヤーや資材を斜面上方へ
    運ぶ必要がありコストがかかる。また、安全性の面からも、今後は上げ荷
    集材が可能な道づくりが必要である。
   ・ WOODLINERは無線で荷外しができるオートチョーカーと組み合わせる
    ことで、土場において荷外しをする作業員の数を減らすことができる。
   ・ WOODLINERとタワーヤーダによる集材については、集材時に樹冠を
    痛めないよう全木で出した方が、バイオマス利用(林地残材利用)
    の点からも効率的ではないかと考えている。

  (ウ) 「オーストリア製高性能搬器 WOODLINERの特徴」
    阿部 智氏(株式会社イービジョンエンジニアリング・代表取締役)

    阿部氏からは、静岡県森林組合連合会が導入されたオーストリア製
    高性能搬器WOODLINERの特徴等について、ご講演いただきました。

   【要旨】
   ・ WOODLINERは自走式搬器と言われている。国内でも自走式と
    呼ばれるものは様々あり、WOODLINERとは違う自走の仕組みの
    ものも販売されている。
   ・ WOODLINERの使用時に用いられるワイヤーは、
    「圧縮型=コンパクトタイプ」と言われるものであり、日本ではまだ
    販売されていない。静岡県森林組合連合会で使用されている
    ワイヤーはオーストラリア製である。
   ・ WOODLINERは無線リモコンで操作され、先山の荷掛手と土場の
    機械オペレータがそれぞれリモコンを持つ。荷掛手と機械オペレータの
    間で操作権を交換しながら、WOODLINERを操作する。その中間の
    自動走行のスピードについても設定が可能である。
   ・ 日本で普及してきた架線集材では、スイングヤーダやタワーヤーダが
    用いられてきた。WOODLINERはタワーヤーダとオーバーラップする
    部分としない部分がある。タワーヤーダに比べ、WOODLINERは、
    メインライン1本で上げ荷、下げ荷、水平作業の全てを同じ条件で行える
    ことに特徴がある。架設時間はタワーヤーダよりも要するが、水平か
    下げ荷か分かりにくいような場所では、タワーヤーダではホールバック
    ラインまで用意しないといけないが、WOODLINERはその手間を解消
    できる。
   ・ 高性能搬器導入の成功の鍵は、荷掛手の荷掛作業の熟練度である。
    機械オペレータと同様の操作を荷掛手も行う必要があるため、先山での
    荷掛に時間がかかると、作業システム自体が非効率になってしまう。
   ・ WOODLINERはシンプルな機械だが、その使用においては、ヨーロッパで
    培われてきた現場のノウハウを日本において正しく導入できるかがポイント
    である。

  (エ) 「高性能搬器を活用した間伐作業システムの展望」
    近藤恵市氏(国立大学法人静岡大学 農学部・准教授)

    近藤氏からは、静岡県森林組合連合会の作業日報をもとに算出した
    旧システムと新システムの生産性の比較分析から、高性能搬器を
    活用した間伐作業システムの展望について、ご講演いただきました。
  
    ※ 旧システム
     「伐倒:チェンソー → 集材:タワーヤーダ(搬器:シェルパ)
      → 造材:プロセッサ」

      新システム
     「伐倒:チェンソー → 集材:タワーヤーダ(搬器:WOODLINER)
      → 造材:プロセッサ」

   【要旨】
   ・ 間伐作業システムについてだが、一般的に車両系システムは緩傾斜地
    において導入するものである。しかし、ここ数年は、本来架線系システムを
    導入すべきような急傾斜地においても、安易な作業道を作り、車両系
    システムを導入している事例が見られ、懸念している。
   ・ 架線系システムについては、簡易的架線(スイングヤーダ)システム
    では長い距離で索張りできず、また、機械的な能力の限界性から高い
    生産性が得ることが難しい。加えて、安全性の面からも、タワーヤーダ
    などの本格的架線システムに着目していくべきだろう。
   ・ 車両系システムに比べ、架線系システムの不利な点としては、「架設・
    撤去に時間を要すること」と「集材機オペレータと先山の荷掛手の間で
    作業をするために、待ち時間が発生すること」が挙げられる。
   ・ この点は、タワーヤーダやWOODLINERの導入と集材機オペレータと
    先山の荷掛手による搬器の無線操作によって解消できる。
   ・ 旧システムと新システムを比較分析した結果、新システムは旧システム
    に比べ、伐倒作業や土場作業における人工数を減らすことにより生産性が
    向上していることが明かとなった。
   ・ 新旧システムのサイクルタイムを比較してみると、新システムの方が
    作業スピードが速く、特に新システムと旧システムにおいては、「荷掛け」
    「横取り退避」「荷上げ」に大きな差が出た。これは、旧システムにおいて
    は、無線で荷掛手とタワーヤーダのオペレータがやりとりしながら、搬器の
    操作はタワーヤーダのオペレータのみで操作しているためである。
   ・ WOODLINERを導入すると、「荷掛け」「横取り退避」「荷上げ」の
    時間がかなり短縮され、適確な荷掛場所の設定もできる。また、荷掛手
    自身で搬器の操作が可能であることから、横取りの際は危険な場所を
    避けることができるので、安全性の向上や残存木の損傷の軽減など
    にも繋がる。
   ・ 今後の架線系システムの課題としては、「架設・撤去時間の短縮」や
    集材を考慮した伐倒木の選定、かかり木の回避といった「伐倒技術の
    向上」が挙げられる。また、下げ荷集材よりも上げ荷集材の方がコスト
    や安全性において有利な点が多いことから、上げ荷集材が可能な
    「タワーヤーダやトラックが通れる道の確保」も課題となる。

講演会の様子.jpg
写真1:講演会の様子

2. 先進林業機械のデモンストレーション

     高性能搬器WOODLINERを用いた架線集材と、林業専用トラクタ
     WARIOとウィンチによる地曳集材が実演されました。

    【高性能搬器WOODLINERによる架線集材】
    ・ タワーヤーダを設置した現場において、チェンソーによって伐倒された
     材を先山の荷掛手が荷掛し、WOODLINERによって集材後、プロセッサ
     のオペレータがリモコンで荷外ししながら造材する過程が披露され
     ました。
    ・ 土場から先山までの走行スピードや吊り上げ能力などの基本性能の高さ
     に、参加者の注目が集まっていました。
    ・ また、参加者はオートチョーカー(リモコン操作可能な荷外しフック)
     にも高い関心を示し、荷掛手に対して操作方法など多くの質問が
     寄せられました。

    【林業専用トラクタWARIOによる地曳集材】
    ・ オペレータがWARIOに搭載されたウィンチから繊維ロープを引きだし、
     チェンソーによって伐倒された材を荷掛した後、ウィンチをリモコン操作
     しながら作業道の近くまで地曳し、その後、WARIOに搭載された
     グラップルで掴んで土場まで材を運ぶ過程が実演されました。
    ・ リモコンにより、ウィンチだけでなく、WARIO本体のエンジンの
     ON/OFFやエンジン回転数も操作が可能です。また、WARIOは従来の
     クローラタイプのフォワーダに比べ走行スピードが早く、キャビンは
     270度回転するなど、従来のフォワーダには見られない機能を多く備えて
     います。
    ・ 参加者は特に、ウィンチの性能や繊維ロープに高い関心を示して
     いました。

先進林業機械のデモンストレーションの様子.jpg
写真2:先進林業機械のデモンストレーションの様子 

オーストリア製高性能搬器WOODLINER.JPG
 写真3:オーストリア製高性能搬器WOODLINER

WOODLINERによる集材.jpg
写真4:WOODLINERによる集材

リモコンにてWOODLINERを操作し、荷掛をするオペレータ.JPG
写真5:リモコンにてWOODLINERを操作し、荷掛をするオペレータ

林業専用トラクタWARIOに搭載されたウインチから繊維ロープを引き出すオペレータ.jpg
写真6:林業専用トラクタWARIOに搭載されたウインチから
繊維ロープを引き出すオペレータ

以上

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