RINC 株式会社自然産業研究所
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セミナー・シンポジウム

2012年3月31日

平成23年度林業機械化推進シンポジウム                    先進林業機械による日本林業のブレークスルー2 ~架線系システムの新時代~ を開催しました

先進林業機械改良・新作業システム開発事業
平成23年度林業機械化推進シンポジウム
先進林業機械による日本林業のブレークスルー2 ~架線系システムの新時代~
開催結果概略


 平成24年3月2日に、国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区)において、「先進林業機械による日本林業のブレークスルー2 ~架線系システムの新時代~」を開催しました。本シンポジウムでは、有識者による講演、先進林業機械の導入・改良を実施している事業体からの事例報告、林業機械の導入・改良事例を紹介するパネル展示等を行いました。なお、当日は全国各地から約500名の方が参加されました。

[開催概要]
タイトル:平成23年度林業機械化推進シンポジウム
     「先進林業機械による日本林業のブレークスルー2
      ~架線系システムの新時代~」
 開催日:平成24年3月2日(金)
開催会場:国立オリンピック記念青少年総合センター
実施内容:【第1部】先進林業機械に関する情報提供
     【第2部】先進林業機械導入・改良の事例報告
     【第3部】パネルディスカッション
         「先進林業機械による架線系システムの新時代」

1. 【第1部】先進林業機械に関する情報提供

  (ア) 「全国に導入された先進林業機械の紹介」
     中尾友一(株式会社自然産業研究所・主任研究員)

     当社主任研究員の中尾からは、全国で導入された
     先進林業機械の紹介等をいたしました。

   【要旨】
   ・ 本事業で導入が進められている先進林業機械は、大別して2つの流れが
    ある。ひとつはヨーロッパで定評ある林業専用機械で、日本の作業条件に
    適合させるための検証や改良が進められている。もうひとつは日本国内の
    メーカーにより新たな設計コンセプトを盛り込んで開発された機械で、林業
    現場での検証や改良が進められている。
   ・ 先進林業機械の導入により、自重と高出力による材の大径化への対応、
    高速性・走破性向上による長距離集材への対応、少人数での運用実現
    による低コスト化、機械作業による作業者の安全性の向上等が期待され
    ている。
   ・ 先進林業機械の導入投資は大きい。選定する機械は目指す森林像や
    施業と適合しているか、路網等のインフラをふまえ林業機械を活用できる
    事業地確保は十分か、現有の人員・機械とバランスよいシステムを構成
    できるか、増産しても販売先を確保できるか、投資と保守運用の費用を
    確保できるか等、総合的にみて経営にプラスとなるか十分な検討が必要
    である。

  (イ) 「林野庁の林業機械開発事業の概要」
     池田直弥氏(林野庁森林整備部研究・保全課・技術開発推進室長)

    池田氏からは、林野庁の林業機械開発事業の概要について
    ご講演いただきました。

   【要旨】
   ・ 日本の人工林は今後10年間の間に全体の約6割が伐期を迎える。
    一方で、伐採経費や獣害等の問題、森林の持続的な発展に対するニーズ
    の高まり等により、皆伐・再造林よりも長伐期化が進みつつある。
    そのため、林業機械には大径材へ対応するための大型化が課題となって
    いる。
   ・ また、路網整備を含めた生産システムの最適化も検討していかなければ
    ならない。
   ・ 林業は他の産業比べ、労働災害の発生率が高く、労働災害についても
    検討が必要である。依然としてチェンソーでの災害が多いが、最近は
    機械での事故も増えており、ハーベスタでの伐倒範囲の拡大や、
    キャビン内の安全性の確保について検討が必要である。
   ・ 中期的にみて、国産材の材価が高騰することは考えにくく、労働生産性の
    向上、機械経費コストダウン、燃費の向上などが益々重要になってくる。
   ・ 林業機械の開発・普及にあたっては、「開発」「熟成・実証」「普及」の
    3つのステージに区分している。「開発ステージ」では数年後のニーズを
    見据えた機械開発を支援していく。「熟成・実証ステージ」では、機械の
    改良・検証を通じて地域に適した作業システムを確立していく。
    「普及ステージ」では、製品化された林業機械を導入できるための
    支援を実施していく。

  (ウ) 「架線系作業システムの過去・現在・未来」
     後藤純一氏(高知大学教育研究部自然科学系農学部門・教授)

    後藤氏からは、日本の架線系作業システムの変遷と先進林業機械による
    架線系作業システムの展望と課題についてご講演いただきました。

   【要旨】
   ・ 架線系作業システムの変遷について整理すると、「皆伐・拡大造林期」
    「利用間伐導入期」「路網活用期」「高性能機械導入期」4つの時期に
    大別して捉えることができる。
   ・ 「皆伐・拡大造林期」は、大面積皆伐に対応するため、固定式主索で
    集材機を谷まで運び、多人数で作業するシステムであった。一方、
    小規模な民有林では、小型集材機の高性能化やダブルエンドレス用
    搬器の開発、ジグザグ集材などが行われた。「利用間伐導入期」に入ると、
    材はまだ細いが利用間伐が始まった。当時はまだ材価が高く、民有林の
    なかでも篤林家は高密路網の作設に取り組み始めている。この時期には
    自走性搬器や国産のタワーヤーダ、ラジコンの導入が始まった。当時の
    タワーヤーダは、輸入機は高価でメンテナンスが難しかったこと、国産機は
    パワーが不足していたこと、ランニングスカイライン方式には
    スイングヤーダが登場したこと、主索を用いた方式ではトラック道の整備が
    不十分で、中間支持金具の採用もなく、事業量の確保が難しかったこと
    等から十分に定着しなかった。「路網活用期」に入ると、材価の下落に
    ともない低コスト化が志向される中で、路網と高性能林業機械を
    組み合わせたシステムが普及されていった。そして、次の時期として
    「高性能機械導入期」が想定される。ここでは材の大径化や小面積の
    皆伐に対応するためのシステムが求められるだろう。
   ・ 生産性を向上させるためには、サイクルあたりの生産量の増加、
    サイクルタイムの短縮、人員の削減が必要である。単木材積を大きくする
    必要性は、材の大径化に伴い条件は満たされつつある。また、機械には
    高直引力、高速集材を可能とするハイパワーなエンジン、トラブルロスの
    回避、架設・撤去時間の短縮などが求められる。そのほか、連携作業の
    回避と手待ち時間の圧縮、機械の汎用性を高めて稼働率を向上させる
    ことが求められる。そのほか、路網の整備によりタワーヤーダが入って
    いけるようにする必要もある。
   ・ 架線系先進林業機械の可能性として、「集材距離が160m以上」
    「大きな直引力が必要な大径材」「路網の整備が困難な林地」に
    おいては、高性能タワーヤーダが求められる。そのためには、
    10tトラックが走行可能な幅員3.5m以上の路網の整備も必要である。
    高性能タワーヤーダ導入には、トラック道の整備が進むか、
    帯状皆伐更新・大径材生産志向となるかといった点が課題である。

  (エ) 「架線系システムと車両系システムの分岐点」
     長谷川尚史氏(京都大学フィールド科学教育研究センター・准教授)

     長谷川氏からは、作業システムの選択のポイントについて
     ご講演いただきました。

   【要旨】
   ・ 搬出において重要なことは、「山から土場までいかに効率的に材を
    搬出するか」「土場から市場・工場までいかに効率的に運搬するか」
    の2点である。特に、「伐倒→集材→造材→搬出・椪積」という作業
    システムを考える場合は、集材工程が効率化のポイントとなるだろう。
   ・ 集材に使用する機械の選択によって生じる生産性の差異について、
    システムダイナミクスという手法でシミュレーションした。
    その結果、平均胸高直径が大きくなるにつれて搬出コストは低減された。
    なお、ここで特徴的であったのは、架線集材システムは他のシステム
    よりも相対的にコストが高いが、スイングヤーダも材が大きくなれば
    有効になるとの結果が出た。
   ・ 路網は高密度になるにつれて、土場までの運搬距離が長くなり、
    路網の作設コストや維持管理コストも高くなる。この点からすれば、
    道を安価に設置できる場所ではプロセッサによる直接の木寄せが有利
    であり、簡単に道が設置できない場所では架線集材が有利になる。
    ゆえに、車両系システム及び架線系システムの選定は、単に事業地の
    傾斜で判断するのではなく、道に関するトータルコスト
    (作設・維持管理コスト)を評価した上で選定する必要がある。
   ・ 以上の検討をふまえると、作業システムは路網密度と施業体系によって
    決定される。路網と林業機械は森林管理を実現するためのツールであって、
    どのような森林管理を行うかによって、作業システムを検討する必要が
    ある。そのためにも、まずは路網の費用対効果を精確に見積ことが重要
    である。架線系システムにおいても道は必要であることから、まずは
    地域にあった路網の作設技術を確立していく必要がある。

2. 【第2部】先進林業機械導入・改良の事例報告

  (ア) 静岡県森林組合連合会
     高橋雅弘氏(静岡県森林組合連合会・森林整備部長)

     高橋氏からは、高性能自走式搬器WOODLINEを用いた
     架線作業システムの取組についてご報告いただきました。

   【要旨】
   ・ 当会では、平成2年に高性能林業機械を導入して以来、タワーヤーダを活用
    してきた。大型タワーヤーダの導入によって既設林道以外の作業ポイント
    からの集材作業が可能となり、1線あたりの集材コストに見合う集材量を
    確保できた。しかし、事業地は路網が整備され作業スペースが確保できる
    国有林、財産区有林、市町村有林に集中した。その後、架線系・車両系の
    両システムへの対応が求められた結果、民有林でも幅広く対応できるように
    なった。
   ・ 間伐作業システムについて、車両系システムでは高密度な作業道開設の
    必要性、フォワーダの搬出距離の長距離化、安易な作業道開設による危険性
    が課題であった。架線系システムでは、基幹作業道・土場(作業ポイント)
    の必要性、架設・撤去時間の短縮、1線あたりの出材量の確保、
    上げ荷集材の適地の少なさ、下げ荷集材での落石事故などの課題があった。
   ・ そこで、新たな作業システムを構築すべく、平成22年3月より林野庁の
    森林・林業再生プラン実践事業、先進林業機械導入・改良事業に
    取り組んだ。その結果、林業用トラクタが主体の車両系システムと、
    自走式搬器が主体の架線系システムを導入・検証することとなった。
   ・ 架線系システムについては、既存の大型タワーヤーダを活かすため、
    オートマチック機能を搭載した自走式搬器(KONRAD社製
    WOODLINER2500)を導入した。そのほか、索張り補助用の小型可搬式
    ウィンチやラジコン式自動荷外しフック(オートチョーカー)とも
    組み合わせる中で、WOODLINERを用いた架線系システムを検証して
    いる。
   ・ WOODLINERの導入で、従来3~4人作業であった工程が2人作業
    になったこと、アーキアビンデ導入による索張り架設時間の短縮、
    オートチョーカーによる荷外しの手間の軽減により生産性が向上した。
    今後の課題は、1班2人での作業を確立して安定的に高い生産性を
    実現すること、中間支持器を活用し険しい地形への対応力を高めること、
    架設・撤去の効率を高めることが挙げられる。安全性の面からは、
    平行操作を活用した安全作業の確立が求められる。
    また、上げ荷集材ができ10tトラックが走行可能な林業専用道の
    基盤整備が重要である。

  (イ) 広島県西部森林組合事業推進協議会
     佐々木徹氏(太田川森林組合・代表理事専務)

     佐々木氏からは、広島県西部地域における
     高性能搬器LIFTLINERについてご報告いただきました。

   【要旨】
   ・ 平成22年3月より、森林・林業再生プラン実践事業および先進林業機械の
    導入・改良事業に取り組み、ドイツ・オーストリアから招聘された
    フォレスターの指導を得ながら、森林施業、欧州型の作業道の作設に
    取り組んだ。
   ・ 架線系システムを構成する搬器は、自走式搬器(KONRAD社製
    WOODLINER2500)または自走機能のない高性能搬器(KONRAD社製
    LIFTLINER3000)のいずれかの導入を検討した。
    多面的に比較検討した結果、重量が軽いことや導入コスト面での優位性が
    あることなどからLIFTLINERを導入機種として選定することとした。
   ・ 広島県西部地域の森林の特性として若い林分が多いことが挙げられ、
    先柱として確保できる大木は多くないと考えられた。索張りにおける
    安全性確保の面からみて、主索を張る先柱や元柱に掛かる張力を
    小さくするためには、重量が軽い方が良いと考えられた。
   ・ LIFTLINERの長所としては、急傾斜地や長距離集材で強力な荷揚げ能力を
    活かした集材ができること、索類の架設・撤去が簡単で作業システムが
    シンプルなこと、無線リモコンによる操作が可能で作業員の労働負荷軽減や
    安全確保を図れること、機械として堅牢なつくりであることが挙げられる。
   ・ 主に現場作業班から挙げられたLIFTLINERの今後の改良ポイントを
    紹介する。横取り荷掛け時に軽く引き出すことを可能とする荷吊り索の
    軽量化、荷吊り索用ドラムでのワイヤロープの食い込み防止、横取りの
    際の搬器落下を防止する機構の設置、リモコンの応答反応の向上、
    リモコンの電池についてスペア電池との交換を可能とする充電方法
    への変更等が挙げられた。また、オートチョーカーについては、重量が
    重い、フックが外れない、荷掛け時に幹下を通しにくいなどの課題が
    指摘され、簡単・確実に荷掛け・荷外しができて軽量なオートチョーカーの
    開発を求める声があった。


  (ウ) 香美森林組合
     森本正延氏(香美森林組合・業務課長)

     森本氏からは、香美森林組合におけるタワーヤーダシステムの
     取組についてご報告いただきました。

   【要旨】
   ・ 平成9年にスイングヤーダを導入したことを契機に、路網とスイングヤーダ
    による作業システムを中心に搬出間伐を展開してきたが、現在でも
    約76%が未集約の状況である。その要因として、作業道開設が困難な
    エリアが多いこと、集材の長距離化に伴いスイングヤーダでは集材が
    困難になってきていることが挙げられる。
   ・ そこで、森林・林業再生プラン実践事業および先進林業機械の導入・改良
    事業に取り組み、中距離集材システムについては、スイングヤーダ
    に代わって高性能・高機能なタワーヤーダを導入することとなった。
   ・ これまでの調査結果および経験から、スイングヤーダとタワーヤーダを
    比較してみたい。必要な路網の間隔はスイングヤーダでは150m
    (上荷集材80m、下荷集材60m程度)間隔の道が必要であるのに対し、
    タワーヤーダは300~400m(上荷集材が基本)と広がった。地形の
    制約は、スイングヤーダでは対応困難な凸型地形でもタワーヤーダは
    主索中間支持金具を用いることで対応が可能で、集材範囲が広がった。
   ・ 今回導入した牽引式タワーヤーダは、同時に導入した林業専用トラクタ
    により牽引されることで現場間を移動していた。しかし、トラクタの
    ウィンチによる短距離集材システムの稼働率向上も課題となり、長距離の
    移動以外はトラクタ牽引によらない方法でタワーヤーダを移動させることを
    検討する必要が生じた。
   ・ そこで、平成23年度先進林業機械改良・新作業システム開発事業により、
    タワーヤーダの短距離自走移動のために、前輪(補助輪)の装備、
    操舵機能付きの油圧走行アシスト装置の開発に取り組んでいる。また、
    中距離の移動のために、プロセッサまたは林内作業車等が牽引する
    ことにより移動できるよう、牽引具の改良に取り組んでいる。長距離の
    移動については、従来どおりトラクタが牽引することにより移動することを
    想定している。なお、本事業ではトラクタとウィンチによるシステムの
    改良に向けて、繊維ロープの活用による下げ荷集材の検証、繊維ロープ
    専用の滑車の開発にも取り組んでいる。


  (エ) 堀川林業株式会社
     駒田賢氏(堀川林業株式会社・環境土木部長)

     駒田氏からは、北海道における架線系作業システム導入の
     取組についてご報告いただきました。

   【要旨】
   ・ 北海道内でははほとんどが車両系システムであるが、道内でも日本海
    側や日高山系及び道南地域には急峻で地質も脆弱な、本州の急傾斜地
    と類似した作業条件の地域がある。ここでは架線系作業システムが
    比較優位をもつ可能性があり、その試行・検証が求められていた。
   ・ また、風倒木処理などの災害対応の遅滞解消や、環境保全や生態系に
    配慮した作業システムとしても、架線系システムは期待されていた。
    以上のような理由から、平成23年度作業システム導入支援事業を活用し、
    最新のタワーヤーダをまずはレンタルにより導入し、架線系システムの
    可能性について試行・検証する取り組みを実施した。
   ・ 牽引式(自走機能付き)タワーヤーダ(KOLLER社製 K602)と高速搬器
    (KOLLER社製 MSK3)をレンタルし、システム導入の試行および
    シミュレーションを実施した。
   ・ タワーヤーダによる集材を試行してみての評価は、メリットとして
    「設置・撤収が早い」「集材スピードが早い」「高速搬器から出る横取り
    ラインの引出しが軽い」「中間サポートの使い方により多様な集材が可能」
     「作業道作設が不要で環境配慮型施業の実施が可能」「オートチョーカー
    の利用により荷外し時の災害を防止できる」「リモコン操作による疲労
    軽減と安全性向上を図れる」「ブル集材では生じる材質の低下を回避
    できる」などが挙げられた。
   ・ 一方、課題としては、「搬入搬出のための路網整備が必要」「けん引機械
    の調達が困難である」「設置・撤収、操作に訓練が必要」「択伐では
    残木への配慮が難しい」「中間サポート木の強度判断が難しい」「国有林
    における林道(管理道)上での作業に制約がある」「全木集材の場合は
    枝条の販路開拓が必要」「システムの導入費用が高い」などが挙げられた。


  (オ) 住友林業株式会社
     杉山純之
     (住友林業株式会社山林環境本部山林部企画グループ・マネージャー)

     杉山氏からは、住友林業株式会社における車載型高性能
     タワーヤーダの開発の取組についてご報告いただきました。

   【要旨】
   ・ 住友林業株式会社は、木造住宅の大手メーカー、木材建材の商社
    であると同時に、国内外の社有林において継続的に林業を営んでいる。
    国内では、北海道、和歌山、四国、九州に42,462haの社有林がある。
    中でも九州の社有林は幅員3.5m以上の路網が整備され、その密度が
    高いことから、車載型高性能タワーヤーダを導入した。
   ・ タワーヤーダ導入の背景としては、原木材価の低迷などの山林を
    取り巻く厳しい情勢と、低コスト化によりバイオマス等の新たな需要の
    取り込みを図ろうとしていることが挙げられる。そこで、低コスト・
    高効率な架線集材への抜本的転換を図るため、作業の核となる
    新たな林業機械として車載型高性能タワーヤーダ導入に取り組んだ。
   ・ タワーヤーダの改良においては、幅員や回転半径が小さい、路体が
    弱いといった国内の路網環境に対応させるため、10tトラックに搭載
    できる重量(総重量で20t程度)とし、また公道での自走を想定した規格
    とした。そのため、欧州ではタワーヤーダとプロセッサのコンビマシンが
    主流であるが、今回の開発ではタワーヤーダとプロセッサは分離し、
    軽量化と低価格化を図った。
   ・ さらに、故障しにくいように、電気系統やセンサーの保護
    (日本の湿気への耐性)やメーカー側による定期点検の実施体制を
    検討した。加えて、無線制御機構を活用し、タワーヤーダの無線制御や
    オートチョーカー(ラジコン式自動荷外しフック)を活用した作業効率の
    向上にも取り組んだ。タワーヤーダに組み合わせる搬器は、
    KONRAD社製のLIFTLINER3000を採用した。
   ・ 新しいタワーヤーダを導入するだけでは、生産性が飛躍的に向上
    することはない。機械の能力のみならず、その特性を活かす施業方法を
    確立する必要がある。現在、九州の社有林では、間伐現場において
    タワーヤーダを設置し、294~425mのロングスパンの下げ荷集材の
    試行が進められている。
   ・ 今後の普及に向けては、初期投資とランニングコストの抑制、安定かつ
    容易な作業性の確保、メンテナンス体制の確保などが挙げられる。
    特に、タワーヤーダを普及していくにあたってはコストが大きな障壁
    となっている。間伐中心では機械費の償却が十分にできないため、
    主伐や再造林を前提とした循環林業を進めることを検討する必要が
    あると思われる。


3. 【第3部】パネルディスカッション
        「先進林業機械による架線系システムの新時代」

   モデレーター:
    長谷川尚史氏(京都大学フィールド科学教育研究センター・准教授)
   パネリスト:
    後藤純一氏(高知大学教育研究部自然科学系農学部門・教授)
    駒田賢氏(堀川林業株式会社・環境土木部長)
    佐々木徹氏(太田川森林組合・代表理事専務)
    杉山純之氏(住友林業株式会社山林環境本部山林部企画グループ・
          マネージャー)
    高橋雅弘氏(静岡県森林組合連合会・森林整備部長)
    森本正延氏(香美森林組合・業務課長)

   パネルディスカッションでは、先進林業機械による架線系システムの
   新時代をテーマに、参加者との質疑応答を行いました。

   【要旨】
  ・ 会場から、「補助金なしでも先進林業機械の導入は可能か」
   との質問が寄せられた。(長谷川)
    >最低限の費用と木材価格との比較で、どうしても不足は出ると思う。
     その際は、補助金の捉え方が大切になる。今後の方向性は、
     トータルコストの抑制が重要となる。(後藤)
  ・ 第2部では、繊維ロープの試行について複数の報告がある。
   高価な繊維ロープが作業の効率性に繋がるのか伺いたい。(長谷川)
    >繊維ロープはトラクタのウィンチで使用している。重量は
     鋼線ワイヤの1/6で、作業員からは作業が楽だと聞いている。
     価格は高いので、使用方法の検証も進めたい。(佐々木)
    >破断強度については、倒木に使用する場合は4.8tぐらい、
     張りだと8t程度である。昨年の林業機械展でも繊維ロープが
     展示されていた。(森本)
    >鋼線ワイヤに比べると軽く破断強度は同等だが、ハサミでも
     切れるので、岩場で擦れれば切れることもあるだろう。ドイツでも
     繊維ロープを使用した事故があったと聞いており、使用方法は慎重な
     検討が必要である。トラクタのウィンチで集材する際、上げ荷集材は
     鋼線ワイヤでよいが、下げ荷集材は労働負荷が大きいため繊維
     ロープを使用している。WOODLINERの導入に伴い繊維ロープの
     機械索も導入したが、繊維が延びて先柱が傾くことがある。
     繊維ロープの特徴を理解することが大切である。(高橋)
  ・ タワーヤーダの活用が可能になった背景として木の大径化が挙げ
   られたが、初期間伐においては中型タワーヤーダを使用することは
   難しいか。(長谷川)
    >タワーヤーダ導入の条件として一回の荷の材積を多くする必要が
     あるので、単木材積が小さい場合は木寄せを省力化しなければ
     採算は合わない。(後藤)
    >上げ荷集材は、長距離で集材できれば採算は合うと思う。
     問題は下げ荷集材で、採算確保が難しい。どれだけの材が
     あれば採算が合うか、研究機関でも調査されたい。(森本)
    >下げ荷集材は索張り距離が長いほどコストがかかる。
     上げ荷集材は索張コストが安価で長距離の索張をしやすいが、
     索張りの距離でみた損益分岐点の検討は必要である。(高橋)
  ・ 皆伐でのタワーヤーダの活用についてご意見いただきたい。(長谷川)
    >タワーヤーダの導入当初は、プロセッサとタワーヤーダはセット
     と考えていた。それは全木集材が前提の場合で、その多くが
     皆伐の現場で架設・撤去が早いために効率が良いと考えている。
     小面積皆伐であっても間伐よりは効率はよいので、5ha程度の
     皆伐であれば森林所有者への還元もできると思う。(高橋)
    >住友林業株式会社では、間伐よりも皆伐を前提にタワーヤーダを
     用いている。架設・撤去を短くすることができれば、5ha以上であれば
     採算が合うかと思う。(杉山)
    >堀川林業株式会社では道有林・国有林の請負が多いが、その多くは
     択伐である。タワーヤーダの普及には、道有林や国有林の施業計画
     についても見直しが必要となるだろう。タワーヤーダを導入する
     場合には、民有林の皆伐現場から始めることになろう。(駒田)
  ・ 間伐の集材作業における残存木の損傷の程度と、の対応策を教えて
   頂きたい。(長谷川)
    >間伐では、残存木ゼロにはなりえない。本線が高ければ残存木の
     ダメージは少なく済むので、架線を高く張れる際はできるだけ全幹で
     集材し、架線が低い際は短幹で集材する。また、傷つく残存木は
     必ず生じるので、あえていくつか犠牲木を設けている。犠牲木は
     最後に切り、他の木を痛めないようにしている。(高橋)
    >横取りすれば、どうしても残存木を痛めてしまう。ただ、小まめに
     索張りを行えば残存木の損傷は抑えることができると考えている。
     (佐々木)
    >平成21年頃まではほぼ列状間伐を行っていた。列状間伐であっても
     架線上の材は傷つくので、犠牲木を設けて集材するようにしている。
     (森本)
    >残存木を痛めない間伐方法を工夫し、できるだけ横取りを減らす
     必要があろう。(駒田)
    >下げ荷集材の際は非常に材が傷つきやすい。集材する際は、
     最小限の犠牲木で済むように、きちんと犠牲木を設定することが
     大切である。(杉山)
    >架線の高さと横取りの角度の兼ね合いがポイントかと思う。
     架線は高くし、横取りについては架線に沿うようにしなければ
     ならないだろう。(後藤)
  ・ 大重量の機械設置が難しい現場にで、タワーヤーダを導入する際の
   ポイントは何か。(長谷川)
    >タワーヤーダ導入時の課題は、作業ポイントの確保であった。
     道がしっかりとしている国有林や市町村有林は確保しやすいが、
     民有林では難しい。施業集約化の流れの中で確保しやすくなって
     いくと思うが、所有者の意向により難しい場合もあるだろう。(高橋)
    >牽引式タワーヤーダであれば、比較的サイズが小さいので
     作業ポイントの確保は可能かと思う。ただ、機械を旋回できるような
     ポイントはきちんと確保する必要がある。(森本)
    >タワーヤーダの試行を行った際、国有林からは管理上の問題から
     林道上での作業は難しいと指摘された。今後はその点について
     国有林の方でも検討していただきたい。(駒田)
    >現在は社有林限定の稼動のため、タワーヤーダの作業ポイント
     確保にはさほど苦労していない。大型タワーヤーダが入れない
     現場もあり、小型機の開発にも期待したい。(杉山)
  ・ 本日の感想を一言ずつ頂戴したい。(長谷川)
    >架線系システムへの関心が高まっていることを改めて感じた。
     架線系システムでは技術が大切だと思う。従来の架線集材を見直し、
     技術を継承していく必要があろう。(高橋)
    >民有林の集約化では、タワーヤーダでの集材も想定した施業プランの
     提案が必要と考えている。(佐々木)
    >優れたタワーヤーダが開発されても、使用する人材の育成が
     重要になる。(森本)
    >北海道の架線系集材は、択伐だけでなく小面積皆伐の検討も必要と
     思う。また、全木集材はバイオマス市場の確保が前提となる。これらを
     改善できれば、北海道でも架線系システムが広がるだろう。(駒田)
    >持続的に林業経営していくために必要なことを検討していかなければ
     ならない。今後も林業経営について皆様と情報共有させていただきたい。
     (杉山)
    >スイングヤーダの稼動実績データは集まっているが、タワーヤーダは稼動
     実績が多くない。まずは稼動実績データをしっかりと集めていくことが
     大切である。(後藤)



シンポジウムの様子.JPG
写真1:シンポジウムの様子


パネルディスカッションの様子.JPG
写真2:パネルディスカッションの様子


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写真3:パネル展示の様子

以上

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